限定承認
限定承認とは
相続財産があることは明らかなものの、プラスのほうが多いのかマイナス(借金)のほうが多いのかが分からない場合があります。
そのような事案において単純承認をしてしまうと、後日借金のほうが多いことが判明したときに大きな損失を被ることになってしまいます。
このようなことを回避するために、民法では
限定承認という制度が定められています。
限定承認を行いますと、
仮に借金のほうが多かった場合でも、相続したプラス財産の範囲内で借金を支払えば良く、支払い切れなかった分は免除されます。
限定承認が利用される場合
限定承認が利用されるのは、大きくは次の2つの場合です。
- 相続財産のプラスのほうが多いのか、マイナスのほうが多いのかが不明である場合
- どうしても取得したい相続財産ががある場合 ⇒ 先買権の行使により、欲しい相続財産の価値に相当する金銭を支払えば、その相続財産を取得することができる
限定承認ができる期間
限定承認をするには、相続放棄と同様、
熟慮期間(相続開始及び相続財産の存在を知ってから3ヶ月)内に家庭裁判所に対して申立てを行わなければなりません。
もし熟慮期間内に限定承認をするかどうかを決められない場合には、家庭裁判所に対して熟慮期間の延長を申し立てることができます。
そして、家庭裁判所が認めた場合には、熟慮期間が延長されます。
限定承認の利用は少ない・・・デメリットもある
限定承認という言葉は比較的知られていますが、次のような理由から、限定承認が実際に行われることは非常に少ないです。
- 限定承認は相続人全員で行う必要がある。
- 専門知識が必要になる「清算」作業を行わなければならない。
- 忘れた頃に相続債権者から支払を求められる可能性もある。
- 税金が複雑である。
- 専門家に依頼する必要があり、かなりの費用がかかる。
限定承認は相続人全員で行う必要がある
民法923条は、「相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる」と定めています。
つまり、限定承認は、相続人全員で行わなければなりませんから、相続人の誰か一人が単純承認をしている場合、残りの相続人は限定承認を利用することができません。
これに対して、相続放棄をしている相続人がいる場合、その者は最初から相続人ではなかったものとみなされますので、残りの相続人が共同して限定承認を行うことができます。
以上をまとめると次のようになります。
- 相続人の誰かが単純承認をしている ⇒ 残りの相続人は限定承認ができない
- 相続人の誰かが相続放棄をしている ⇒ 残りの相続人は限定承認ができる
限定承認は「清算」手続の一種である
限定承認の本質は、相続財産の清算手続です。
やや大袈裟にいうと、家庭裁判所に限定承認を申し立てた後は、破産と似たような清算手続を行わなければなりません。
その手続を進める過程で、相続債権者や受遺者と紛争(場合によっては訴訟沙汰)になる可能性があります。
また、複数の債権者がいる場合に、限定承認者が優先順位を間違って弁済してしまうと、損害賠償責任を負うことになります。
このように、限定承認を行うには相当な法律知識が必要とされます。
忘れた頃に支払を求められる可能性がある
民法935条は「第927条第1項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、~(以下省略)」と定めています。
つまり、限定承認の手続に関与しなかった債権者も、残っている相続財産があれば限定承認者(=相続人)に対して支払を求めることができます。
これに対して限定承認者が「相続した財産は既に使ってしまって手元にありません」という主張をしても認められない(残余財産は、「請求を受けた時点で手元に残っている財産」ではなく、「限定承認の手続が終わった時に残った計算上の財産」である)と考えられていますので、簡単に「限定承認が終われば万事解決!」ということにはなりません。
したがって、限定承認をしても、なかなか落ち着かない状況が続くことになります。
限定承認の税金は複雑である
限定承認をした場合、被相続人から相続人に対して財産が時価で譲渡されたものとみなされ、所得税が課されます。
そして、所得税がかかる場合には相続開始から4ケ月以内に申告と納付が必要となり、この期間は限定承認が終わっていなくても延長されないと考えられています。
このことも、限定承認の手続を難しくしています。
限定承認は、専門家の費用がかなりかかる
前述のとおり限定承認はかなり難しい手続になっており、実際に行うとなると司法書士や弁護士に依頼することが前提となります。
また、事案によっては税理士への依頼も必要になります。
結果的に、数十万円という費用がかかることも珍しくありません。
限定承認に関するポイント整理
ここで、限定承認に関するポイントを整理しましょう!!
- プラスの遺産とマイナスの遺産のどちらが多いかが不明なときは、限定承認を使うことができます。
- 限定承認をするには、熟慮期間内に、家庭裁判所に対して申立てを行わなければなりません。
- 限定承認は相続人全員で行う必要があります。
- 限定承認には専門的な法律知識が必要になります。
- 限定承認はいろいろと難しい面があり、実際にはあまり利用されていません。
限定承認は専門家にお任せ!!
限定承認は利用実績も少なく、複雑な手続です。
したがいまして、限定承認は法律専門家にお任せいただいたほうが良いでしょう。
もちろん、当事務所も限定承認の手続に対応しております。
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